皆様からの多くの要望を受け、「AI解析機能」が3月に81道場に追加されました。これを開発するにあたり、AI解析の精度について検討した内容を書きたいと思います。

皆様からの要望は、将棋倶楽部24のように「局後に1局分の形成グラフが表示される」というものでした。一方、検討の結果、81道場に追加されたのは「現局面に対する解析結果を表示する機能」となっています。今回はその理由を説明します。

理由は主に2点です。
  1. 精度の問題
  2. 感想戦でのAIの使い方がどうあるべきかという観点
まず精度の問題があります。
そもそも1局分の形勢分析を十分な精度で正しく提供するには、相当な解析時間が必要になると思います。多数の対局に対してそのようなサービスを同時提供できるほどのCPUパワーは81道場には有りませんし、そもそも局後に何分も待たされてから結果が出てきても微妙ですよね。
では実際どれぐらいの解析時間をかけなければいけないか、少し見てみましょう。

下図は、私の最近のある1局の解析例です。
260705-1
AI解析には、1局面あたりどれぐらい深く読むかという「深さ」というパラメータがあります。深くするほど、時間はかかりますが、より信頼できる結果が得られます。そこで深さを変えて1局を解析したのが上記のグラフです。もちろんマシンスペック次第にはなりますが、一例として当方の環境で回してみた結果です。

このように、数十秒以内に結果が得られるような深さ(深さが10前後まで)の場合、結果はあまり正しくないということが分かります。
深さ20の場合は、終盤の手が広い部分をかなり時間をかけて深く読み切っており、「85手目以降は終始先手が勝勢」という結果が導かれています。これに比べて、浅い読み方の場合は形勢が激しく変動しており、また序中盤にも謎のピークや谷が突然出たりしています。そのようなグラフを見て、「これが疑問手」「これが悪手」などと考えるのは意味が無さそうです。

もう一つ、もう少し短めの、割と読み易そうな対局も試してみました。
260705-2
こちらはだいぶマシに見えますが、よくよく見ていくとやはり深さ10程度だと正しくない動きが散見されるようです。

これを見て分かる重要な特徴は、深く読むほどグラフはスムーズになるということです。
この特徴を使えば、AI解析のグラフを見た時に、それが信頼に値するかどうかを見分けることが出来そうですね。すなわち、

  1手おきに形勢がギザギザしているグラフが出てきたら
  おそらくそれは深さが足りていない


と見なすことがどうやらできそうです。1手おきに互いが疑問手を指し続けることは稀ですので、ギザギザしているということは、1手進む度にその先に新しい手が見えて結果が変わっている、つまり読みが足りていないということになると思います。

概ね上の結果から、「せめて深さ15程度は欲しい」というのがひとつの目安のようです。そこで81道場の局面解析機能は、深さ15程度を目標に調整を行っております。その結果、1局面の解析に掛かる待ち時間が2~3秒程度という状況です。

さて、以上が81道場が局面解析しか提供していない直接的な理由なのですが、結果的にそのような仕様になったことは、かえって81道場らしくて良かったと思っています。これこそが、2つ目の理由になります。

81道場の特徴の一つは、インタラクティブな感想戦が可能となる機能がいろいろと用意されている点です。しかし、自分で考えることなく、局後にただ形勢グラフを眺めて「ここがポイントかー」と局面を絞り込んでいる状態は、もはや対局相手との感想戦という「場」から意識が離れているということのように私は思います。
だったらなおさら、対局室を出てから別のソフトでもっと精緻に時間を掛けて正しい解析結果で自己分析した方がはるかに良いわけであって、対局サイト側が中途半端な精度で解析結果を提供する意味がありません。

では感想戦における「場」とは何かというと、それはまさに「対局相手と一緒に今見ている局面」そのものですよね。どの局面を掘り下げるべきかについては、相手から見た対局中の心理なども聴いて参考にしながら見ていきます。そうやって相手と共に見ている現局面に対してこそ、AI解析の力も借りることで感想戦をさらに充実したものにして頂けるのではないかと思います。
対局相手と協力してある局面に注目している時点で、そこには何らかの「仮説」があるということになります。いきなり全てをAIに聞くのではなく、調べたい局面を自分の考えで1つ選び、そこで自らの仮説を先に持った上でAIに聞くという使い方が実践できることで、より棋力向上にもつながると思います。

というわけで、ご要望頂いたにも拘わらず結局形勢グラフ機能を作っておらず申し訳ないのですが、局面解析を有効に活用頂き、皆様それぞれの考え方でAI解析と上手く付き合って棋力向上に励んで頂ければと思っています。