前々回で取り上げた持ち時間のルールの今後について、続きです。
対局サイトごとに、様々なバリエーションの持ち時間のルールが採用されるようになってきました。そこで、それぞれのルールにおいて、1手で考えられる時間が実際にはどのように変わるのかについて、今回は比べてみます。

 [目次]
  • ① ノーマル
  • ② 考慮時間制
  • ③ ノーマル + 考慮時間制 ハイブリッド型
  • ④ フィッシャールール
  • ⑤ フィッシャールール + 秒読み ハイブリッド型 (※新提案)

① ノーマル (持ち時間 + 秒読み)

まずは81道場でも採用しているノーマルタイプ(持ち時間 + 秒読み)から。ここでは「5分+30秒」を例に見ていきます。

今回の分析の観点はこちらのグラフ。これは、
 ある一定のペースで指し進めてきた場合に、n手目の時点で、
 仮に全ての時間を使い切るとしたら最長でどれだけ長考できるか
という指標を縦軸にして、手数(n)ごとにプロットしたものです。仮に、
  • 1手平均10秒でサクサク指し進めた場合
  • 1手平均25秒でしっかり考えながら指し進めた場合
の2通りで比較しました。

260430-01
グラフの通り、このノーマルタイプはあまり合理的なルールではありません。なぜなら、基本的に終盤の大事な局面で長考する余地を残しにくいからです。せっかく持ち時間が有っても、序盤からの消費が無駄に蓄積されていくため、結局終盤まで持ち越せません。1手10秒ペースで早指ししても60手目以降の最終盤では秒読み突入ですし、1手25秒ペースだと中盤の局面ではもう秒読みになってしまいます。

② 考慮時間制

そこで、序盤・終盤に関係なく好きなタイミングでストックを消費できるという合理的な形にしたものが所謂「考慮時間制」です。これは、秒読みが切れたあとに、プールしてある持ち時間から削っていくもの。
これはテレビ対局でもお馴染みです。「1手30秒、ただし1分単位で合計10回の考慮時間があります」と言っているあれです。「1分単位」というのは1秒でも超えたら1分ずつ払い出されるという意味です。
そして、将棋倶楽部24の「早指2」も、実はこの考慮時間制の一種です。「1単位で合計60回の考慮時間があります」と等価になります。
(ちなみに早指2の1分は、当初は考慮時間を意図したものではなく、せっかくの良い将棋を操作のもたつき等で時間切れで終えてしまう例が多く勿体ないので、その救済のために設けた猶予時間という位置づけだったそうです)

では「持ち時間無し、初手から1手30秒、ただし考慮時間5分」という条件でグラフ化してみます。

260430-02
このように、1局を通じて常に一定の長考猶予をキープすることができ、とても合理的です。序中盤で長考するもよし、終盤で長考するもよし。平等な選択の余地があります。
(なお念のためですが、毎手で繰り返しこれだけの考慮ができるという意味ではありません。この最大時間を使えるのは1回だけです。どこかで1回使い切ったら以降はもちろん1手30秒ですので、誤解なきようお願いします)

さて、合理的ではあるものの、このルールには一つ問題があります。それは、序盤から1手10秒ペースだろうが25秒ペースだろうが秒読み以内ならば結果が変わらないという点。つまり、序盤などで出来るだけ早く指し進めるというインセンティブがないのです。ネット将棋なので序盤ぐらいはサクサクと指し進めたいところ。

③ 持ち時間 + 考慮時間 (ハイブリッド)

そこで、①と②をバランスさせたハイブリッド型が出てきます。テレビ対局でお馴染みなのはまさにこれ。
「持ち時間は10分。それを使い切ると1手30秒以内。ただし1分単位で合計10回の考慮時間。」というあれですね。

例えば、5分を「持ち時間3分」と「考慮時間2分」に配分するとこのようなグラフになります。

260430-03

終盤まで考慮時間を残しつつ、序盤で早く指すインセンティブもあり、両立しています。とはいえバランスの調整が難しく、ちょっと中途半端な感じもしますね。

④ フィッシャールール

ではチェスでおなじみ、将棋でも人気が出ているフィッシャールールはどうでしょうか。同様に持ち時間5分とし、1手5秒加算する場合を見てみます。

260430-04
これもとても優秀であることが分かります。1手10秒ペースならば、かなり終盤まで長考の余地を持たせることが出来ていますね。
ただ、大きな問題があります。序中盤でゆっくり指して持ち時間が枯渇すると、そこからは1手5秒で指さないといけません。(そもそも1手平均10秒・25秒という前提条件が満たせなくなっています)
これは結局、10秒将棋よりも短い「超早指し」です。1手5秒というのは、70手ほどの将棋の場合、「3分切れ負け」と同じペースになります。要するにこのルールは、終始早指しが基本思想になっていると分かります。となると、いま論点にしたい「好きな時にじっくり考えられるか?」の趣旨には合いません。

⑤ フィッシャー + 秒読み (ハイブリッド)

そこで今回の新提案がこのハイブリッド方式です。持ち時間をフィッシャールールで加算しつつも、それが切れたら そこから1手30秒の秒読みという合わせ技。

260430-05

早指しで進めれば終盤の長考余裕もしっかり確保できる一方、先に使い切っても1手30秒でしっかり指し続けられる。両方の良いとこ取りを試みました。
如何でしょうか。皆様の感想をお待ちしております。

■ 81道場への実装は?

さて現状、81道場としては②(特に1単位の考慮時間制)や④(フィッシャールールそのもの)は実装することが出来ないと考えています。理由はいくつかありますが、その一つが、81道場では「音声による秒の読み上げ」というものを大切な要素として捉えているためです。
皆様にとって耳に馴染んでいるであろう、

 「10秒~・・・20秒~、いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち、きゅう」

と、10秒前から数を増やす方向で読み上げ、「じゅう」で時間切れとなる読み方。この慣習が②と④では崩れます。
「残り4秒で時間切れ」とかから新たにカウントが始まるシチュエーションが起こりうるためです。その時にどう読むのか。人の声で読み上げるなら「よん、さん、に、いち、ゼロ」で時間切れ、と途中から逆順で読むしかないでしょう。しかしそんな「読み上げ方法」は確立していないし81道場が勝手に作れません。

その点で、⑤のハイブリッドは簡単に実装が出来ます。持ち時間を1手ごとに増やせば良いだけで、あとは全て同じだからです。

また、フィッシャールールの趣旨とはズレますが、最初の持ち時間は少なめにしておいて1手ずつ持ち時間を増やすコンセプトは、序盤数手で放置されてしまった場合に待たされる被害時間を短くするという効果もあると感じており、そこにも注目しています。


今回は以上です。長文に目を通して頂き有難うございました。