局面ペディアのβリリースから2週間経過しました。リリース当初は混乱もありましたが、熱心なユーザの皆さんのご協力のおかげでルールも整備されてきて、落ち着きを取り戻しました。今はまだ編集の話題がメインになっていますが、局面ペディアが本領を発揮するのは、局面について調べたい人が検索をして情報に辿り着いた時です。それが頻繁に起こるようになるには情報の蓄積が必要なので、まだ時間はかかりそうですね。とはいえ、将棋ソフト「ShogiGUI」が局面ペディアに対応されるなど、情報を取る側の使い方も、既に動きが出始めているようです。

さて、局面ペディアを開発する前から、このサイトが出来た場合の得失については当然考えていまして、考慮しないといけない心配・懸念点は存在します。これまでに頂いたコメントを見ても、やはり同じ点についての懸念は見かけられます。それについて私なりの考えを少し書いておこうと思います。

局面ペディアで気になりそうなことをいくつか挙げると、
  1. 棋書や一般の研究サイトなどの需要(や売上)が低下しないか
  2. 簡単に何でも調べられるようになり、自分で考えるという将棋の大切な心が失われないか
  3. 新手が出て結論が変わった時に、古い誤った記述が多数残ってしまわないか
などでしょう。今回は1番について書いてみます。

結論から言うと、これについては大丈夫だと思っていて、一概に棋書や研究サイトの需要が低下するとは思っていません。

将棋は、時間軸に並んだ局面の配列(棋譜など)として認識される場合がほとんどです。これに対して局面ペディアは、それと直交するもう一つの「局面軸」という軸で情報にアクセスします。(念のため図示すると下のようになります。以下X軸・Y軸と呼びましょう。)
xandy
それぞれの軸には、それぞれ適したシステムがあるべきで、万能なシステムというのはなかなかありません。どれかの軸に最適化すれば、他の軸でのアクセスは不便になります。そして、棋書や研究サイトの記述とは、主にX軸を辿りながら書かれるものです。つまり局面ペディアとは相互補完関係にあります。

将棋界にはたくさんの優れたX軸コンテンツが存在します。しかし、これまでの問題は、自分が今一番必要としているX軸を探し出すのが大変ということでした。そして、将棋について何か調べたい時、本来はY軸からアクセスした方が欲しい情報が見つけやすい場合が多いのです。局面ペディアの役割は、Y軸での情報検索をを提供することであり、何手目に出現したか・どの前局面から合流したか・どの対局で出現したかに関係なく、同じ局面は一つとして取り扱います。ここで大事なのは、出来るだけ短時間で、その局面に関する「概要」と、そこから本当に欲しい情報に飛ぶための「次のアクセスルート」、という全体像を把握してもらうこと。そのため、網は広い方がよく、重複した情報が別の局面に書かれることも厭いません。

さてここからが重要で、Y軸経由で概要を掴んだ読者は、必ずそこからX軸に動きたくなります。(次のアクセスルートとはX軸のことです) しかし、局面ペディアそのものはX軸でアクセスするには不便に出来ています。これはそうあるべきだからそうなっていて、別の軸に対しては不便であって然るべきなのです。局面を動かすたびにDBを読み込むのでカチカチと連続してクリックもできませんし、局面を進めても重複した記述が再び出てくることもあります。(これはこれで、何度も復習しながら進められて良い面もありますが。) 順を追って流れを理解していくのには向いていないのです。
そこで、局面ペディアからは、棋書へのリンク(その局面が載っているページ情報まであります)や、解説の脚注として他サイトへのリンクなどがあります。 目的の局面に関して記述されたサイトをGoogleから自力で探すのは大変ですが、局面ペディア経由ならすぐ見つかるわけです。実はこの仕組みにより、需要を減らすどころか、むしろ既存のX軸コンテンツの需要やアクセス機会を増やすように考えています。

ある戦法について調べたい、と思うだけでは、なかなか棋書を買って読んでみるところまではいきません。 それは、自分が欲しい情報が載っているかどうかが分からないし、その戦法への理解が全く無い段階では、そもそもどれぐらい自分がその戦法のことを知りたいかどうかにも、自分で自信が持てないからです。しかし、局面ペディアによって「概要が分かるレベル」までは速やかに引き上げられることで、どうやら自分はこの棋書を読んでみて良さそうだ、どうやら自分はこの研究サイトに書かれていることをじっくり読んでみるべきだ、という指針が与えられ背中を押してもらうことが出来ます。実際、局面ペディアからAmazonへのリンクは既に何度もクリックされています。

局面ペディアが手本としているWikipediaでも同じことが言えると思います。何かについて調べたいとき、Wikipediaで概要を素早くつかみ、そこから書籍などの専門的情報へのアクセスを開始する場合も多いと思います。買わなくて済んだ、という場合も確かにありますが、逆にWikipediaで概要を掴めなかったら、本を買ってまで調べる気にならなかった、という場合もあります。
従って、本当に棋書の需要・売上の低下につながるのか、逆に購入機会の増加につながるかは、今後の局面ペディアの成長の仕方や、将棋界の皆さんの使い方次第であって、今は一概には言えないと思っています。それが後者になるように、これからもサイト造りを頑張っていきたいと思います。