将棋の普及を考えるときに、よく問題視されることのひとつに、将棋のハンデのつけ方がイケてないという話があります。おそらく多くの方がそう思ったことがあるでしょう。先日も、海外普及について議論をする機会があったのですが、やはりその話題になり、改めて駒落ちには課題が多いと感じました。

逆に、ハンデがうまく出来ている例としてよく比較されるのが囲碁です。囲碁には置き碁というシステムがあり、下手が予め黒石をいくつか置いた状態から始めます。実力の違う者同士が対局を楽しむ上で、とてもうまく機能しているようですが、将棋との違いはどこにあるのでしょうか。今回は駒落ちの課題を2つのフェーズに分けて考えてみます。

フェーズ1: 駒落ちを始めるまで … 「変更内容が極端すぎて前向きになれない」

日本でもそうかもしれませんが、特に海外で初めて将棋を知った人と指す場合、駒を落とすということを拒否されるケースが多いです。理由は、相手の駒を無くすという変更が、あまりにも大きく見え、違和感を覚えるためです。これは、①プライドを傷つけられるという感情と ②教わったはずのゲームと全然違うことをやらされるという無意味感、によるものと思われます。

この点、置き碁では、相手の武器を奪うというような変更ではなく、自分側にいくらかの数的優位を築くという、ゲームの本質を変えない範囲での、十分に定量的・論理的で納得のいく「ハンデキャップ」であるため、違和感無く受け入れられると考えられます。

フェーズ2: 駒落ちを始めてから … 「全然有利になってない」

いざ駒落ちを始めたとしても、次にこの大きな問題があります。置き碁は間違いなく下手有利ですが、将棋では駒を落としたところで、下手が全然有利にならないのです。プライドを傷つけるほどの、この見た目の大きな差にも関わらず、実はあまり差がついていない、というのが駒落ちが好かれない一番の原因ではないでしょうか。有利にならない理由は、少し指せば皆さんもすぐお気づきと思いますが、以下のような点が挙げられます。(二枚落ち等をイメージして下さい)
  • 上手には苛める対象の駒がいない: 上手には、角の頭とか、飛車の小鬢などの弱点がありません。自陣内にと金を作られても被害が大きくありませんので、攻めに応じる必要がありません。一方、下手は角や飛車の周りにと金を作られたら一大事です。大駒に働きかけながら攻められると、逃げたり守ったりする手が必要となり、上手が手数を稼ぎ攻めが加速します。
  • 結局、飛車角を打てるのは上手だけ: そして、そのように苛められて取られた飛車角は、無残にも下手陣に打ち込まれ、むしろ上手の武器として大暴れするわけです。
  • 上手に献上する飛車角を最初から持たされているだけ: 結局下手は、玉・飛車・角という3つもの駒を守らないといけないのです。なぜなら、もし守らないと、それは上手の物になってしまうからです。下手で指しているとき、「今この局面で、もし自分の飛車と角も上手と同様に駒箱にしまうことができれば、勝ちなんだけど」と思ったことありませんか?下手は上手以上の負担を背負わされているのです。
  • どんどん盛り上がってくる上手: 逆に自陣の駒を守るという心配事が無い上手は、手数を金銀に掛けることができ、スカスカの下段を気にすることもなく盛り上がることが出来ます。下手は自陣にスキを作れないので、同じことが出来ません。上手の厚みに抑え込まれ、飛車角を封じ込まれたら終わり。あとはと金で取られて打ち込まれる運命です。
  • 成り込んでも駒が取れない: これは香落ちなどでよくある話です。1一の香が居ないので、角が成っても香が取れません。角交換からお互いに敵陣に角を打った時、上手だけが香を取れるなど、下手が損をするケースがあります。
もちろん、論理的には下手が有利になっているはずです。しかし、その有利を活かせるには、既に相当な棋力があり、わざわざ駒落ち専用の特殊な手法や定跡を習得していないといけない、という仕掛けになっているわけです。
 
要するにつまらない

このような裏のトリックがたくさん隠されている「駒落ち」は、到底まともな「ハンデキャップ」とは言えませんね。
もちろん将棋界では、駒落ちは上達のための素晴らしい訓練ツールであると言われており、私もそれは十分理解・同意しています。それぞれの駒落ちには、習得すべき手筋や考え方、乗り越えなければいけない上手の対抗手段がうまく盛り込まれており、それをクリアすると勝てるように出来ています。
また、玉・飛車・角と守るべきものを3つ持たされ、取られると逆ハンデになる、という厳しい状況は、「強い武器を持つということは、力を得ると同時にそれを扱う責任とリスクを負う」ということを実感させます。大事な武器が逆に弱点になってしまわないよう、責任を持ってケアし、力を活かし、使いこなせた時に、やっと勝つことができます。駒落ちはそのような、駒を使いこなす能力・キャパを鍛えるトレーニングでもあるとも言えそうです。

しかし、そんな話は将棋を本気で学びたい人の都合です。別に皆がそこまで苦しんで強くなりたいわけではないし、平手で出てこないような特殊な攻め方や定跡なんて覚えたくもありません。というか、早く飛車とか角を打ち込んでみたいんです。飛車落ちまで進んでやっと、角交換ができて、やっと大駒を打つ楽しみが得られるって、、、どんだけ我慢させるんですかね。

いま足りないのは、修行のための駒落ちではない、

  「実力が異なる者(入門者含む)同士が、
   差をちゃんと埋めて、仲間と互角に将棋の対局を楽しめるハンデ」


です。囲碁やゴルフのように。
将棋にはそれが無いのです。

改善案

ではそのようなハンデを作る方法は考えられないものでしょうか。上記の話をまとめると、下記がポイントになります。
  1. 上手のマイナス側ではなく、下手のプラス側でハンデをつける。
  2. 平手の将棋と異質なものにしすぎない。(同じように指すことができ、同じように楽しめること。)
  3. 確実に下手が有利になるもの。
既にある方法の中で、従来の駒落ちよりかなり良いと思っているのが「トンボ」という駒落ちです。

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これは上で述べた課題のかなりの部分を改善できているので、素晴らしいアイデアだと思います。81Dojoでも採用させて頂いています。
ですがやはり「上手の駒を無くす」という、マイナス側の極端な変更を行うという点で、普及ツールとしてまだ課題が残っているように思います。そこで、私が思いつく案としてこういうのは如何でしょうか。

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駒落ちならぬ「駒持ち」です。下手にプラス側の変更で、確実に有利になり、駒の数を変えていないため平手の延長線上から逸脱しすぎないものになっているかと思います。あたかも二枚落ちの上手のように、金銀を盛り上がって指し、上手の飛車や角を苛める楽しみまであります。(まさに今まで上手にやられていたことの仕返しが出来るのです 笑) そして手元には、絶対に取られない、いつでも打ち込める飛車角があります。打とうと思えば自陣に打って平手にも戻せるわけですから、確実に有利であることが担保されていることになります。そして間違いなく、上手と指していても「楽しい」です。これならば、負けても自分がヘタだっただけなので、納得がいきます。見た目も、元々自分の駒だったものを駒台に移動させただけ、ということで、大きすぎるハンデをもらったというようなプライドを傷つける要素も少ないと思います。
そして何より、最初から駒を打つということを意識できます。駒を打つ可能性を考えながら手を読んだり、逆に相手が駒を打つ手が見えるようになるには、まず自分自身が駒を打つ体験を重ねないといけません。駒を打ったことがないのに、「相手のあの駒を取れば、あそこに打てる」とか「あれを取られるとあそこに打たれる」という様には考えられないのです。ですので、駒持ちで得た学びは、そのまま平手でもすぐに役立つと思います。

実際に何度も試してみたわけではないので、果たしてこれが良いハンデかどうかは分かりません。うっかり飛角香香の「四枚持ち」とかやってしまうと、☗2六香~☗2五香打と並べていきなり2三の地点を破ることが出来てしまいます。まあ、それぐらいのハンデがあっても丁度良い、という考え方もあると思いますが。

皆さんはどのようなアイデアをお持ちでしょうか?81Dojoには色々なルールを実装できるようになっているので、アイデアがあれば実際に試してみることも出来ます。是非いろいろなコメントをお聞かせ下さい。

次回記事へ続く: 将棋のハンデ改善案への反応


10月のパネラー講演でご紹介した、海外向け情報集約サイト「ShogiHub」を先日リリースしました。今回はその内容を少しご紹介したいと思います。

shogihub

海外普及の今の課題の一つとして、情報が分散していて集約されていないこと、「ここに行けば将棋界の最新の動向が掴める」という拠り所が無いこと、です。そのため、パネラー講演でもそのような情報発信源の構築を提案しました。
しかし、すぐに提案が実現するとも限りません。そこで今年の3月から徐々に準備してきたのがこのShogiHubです。Hub(ハブ)というのは、歯車の軸とか、ネットワークの中心という意味で、まさに情報を得る際の軸として使ってもらいたいという思いで名付けました。ShogiHubでは様々な情報をまとめていますが、中でも特に重要視しているカテゴリが2つあります。

(1) プロ棋士の情報と、最新のプロの対局情報

まず、海外の将棋ファンの皆さんに、出来るだけ多くのプロ棋士の名前と顔を覚えて頂きたい、そして、棋士のファンとなり、対局を追いかけて応援して欲しい、という思いがあります。そこで、プロ棋士の情報を集約したページを作りました。

 全棋士・師弟関係図

特にこちらの師弟関係図は、日本のファンの皆さんにとっても興味深いものになっているかもしれません。孫弟子とか、従兄弟(?)関係になっている棋士とか、様々なことが一目で分かりますね。ずっと遡ってみますと、関根金次郎門下の人数の多さに驚きます。

 最新の対局情報

そしてこちらが最新の対局情報です。棋士ごとの対局履歴も見れますので、海外の方でもファンの棋士の対局をフォロー出来るようになります。

(2) 海外の将棋イベント一覧

もう一つ重要なのが、いま世界中で開催頻度が増えてきている、将棋関係の大会やイベントの一覧です。これまではイベント情報が各サイト発信になっていて、告知もFacebookやフォーラムなどでバラバラに行われていました。それではどうしても見落としが発生してしまいます。そこでそれらの情報を全てリスト化出来るものを作りました。

 将棋イベント一覧

イベント主催者は各自で情報をShogiHubに登録することが出来ます。すると、サイトのAtom Feedを購読しておけば、最新の更新情報が送られてくる仕組みです。また、過去のイベント一覧も見ることが出来るようになっていて、各イベント主催者が結果レポートのページを登録することも出来ます。このように過去のイベントの様子や成果を後からでもすぐ見られるようにしておくのは大切なことで、1年後・数年後にとても役立ってきます。

※ 今後に向けて


このようなサイトが定着し、海外への情報展開ルートが定まってくると、今後企画されるイベントなどの周知率が向上してきます。例えば、2年後にも次回の国際将棋フォーラムが開催される見込みですが、世界からの注目度がこれまでより一層高くなるよう、情報発信の仕組み作りを頑張っていきたいと思います。 


10月3日に東工大くらまえホールで開催されました、将棋を世界に広める会・20周年記念シンポジウム「新しいステージに入った将棋の世界普及」にパネラーとして登壇させて頂きました。

私からは、「5年での変化と今後の課題」というテーマで、これまでの海外普及活動や今後の展望についてお話をさせて頂きました。講演の様子は、関係者の方の多大なご協力によりYouTubeやニコ生で公開されていますので、興味のある方はご参考になさって下さい。

筆者パネラー講演「5年での変化と今後の課題」
 
スライドもISPSのサイトで公開されています

また、この10月に海外初の女流3級となられたカロリーナ・ステチェンスカ先生もパネラーとして日本語による講演をされました。とても日本語が上手になられています。メディアでもあちこちで取り上げられ、まさに時の人。素晴らしいですね。

カロリーナ・ステチェンスカ女流3級パネラー講演
 

パネラー講演のあとは、将棋を世界に広める会の寺尾理事による、海外普及の現状と課題についての分析と総括が、パネラーへの質疑応答を交えながら行われました。いつもながら寺尾さんの調査・分析力は流石ですね。

寺尾理事による分析と総括およびパネラー質疑
 
(※題目としてはパネルディスカッションということで動画には登壇者のみが映っていますので、寺尾さんの姿は映っていないため会場の様子は少し分かりにくいかもしれません)

そして締めくくりとして、羽生名人による記念講演が行われました。毎度のことですが、どの場所でもテーマに合わせて分かり易い構成で話を組み立てられる羽生先生の講演は、いつ聞いても本当に素晴らしいですね。今回もやはり素晴らしいご講演でした。

羽生名人記念講演 
   

羽生名人の講演の中で、「ハム将棋」を紹介される部分がありました。これがニコ生での放送の中で注目を集めたようで、様々なところで取り上げられたようですね。 中でも、将棋ワンストップという将棋情報配信サイトでかなり詳しく取り上げられています。また同サイトでは、パネラー講演やパネルディスカッションの内容についても詳しく内容分析やまとめを作成して下さっています。
このように取り上げて頂くことで、海外普及について皆様に知って頂く機会が増えるのは、本当に有り難いことです。心より感謝したいと思います。

※なお、本記事で全ての動画をご紹介しきれていませんが、全動画はこちらのプレイリストにまとまっています。作成者の方に心より感謝致します。 


10月10日に、Android版およびiOS版のモバイルアプリを正式リリースいたしました。これまで、α版とβ版でのテストにご協力下さったユーザの皆様に心より感謝致します。

アプリへのリンクはこちらからどうぞ。
すでに1000人以上の方にご利用頂き、概ね五つ星(★★★★★)の評価を頂いておりますが、まだまだこれから改良を重ねていく予定です。これからも応援をよろしくお願い致します。
今後も良いレビュー評価を頂けますと、ユーザも増えて対局も付きやすくなると思いますし、開発の励みにもなります。応援して下さるユーザの皆様には、是非レビューにご協力頂けますよう、何卒お願い致します。

なお、現状、新鋭棋士の方がレート対局を指すことが出来るのは当方のミスです。新鋭棋士はレーティングが確定するまでの最初の5局だけは、まず正規のPC版で指して頂くというのが意図でした。しかし、挑戦は出来ないものの、対局待は出来るという状態になってしまいました。集客上はその方が良いので、始めてしまったものは暫くこのままでいきたいと思います。モバイルだけで始めたい方は、今のうちに5局消化して下さいね。

さて、アプリの改良を継続する一方、次のプロジェクトにも取り掛かっていこうと思います。次は、道場の基盤システムの大幅リニューアルを計画しています。 現在のシステムでは実現が難しい下記のようなことを実現していくための、システム一新です。
  • ユーザ自身による大会の開催・運営補助機能
  • サークル作成・運営機能
  • アバターの登録機能
  • 棋譜検索の高速化、高機能化
    など
今後ともよろしくお願いいたします。


先日、GoogleプレイストアにてAndroid用アプリのβ版をリリースしました。こちらの注意事項をご確認のうえ、是非お試し下さい。ストア内のアプリのページは、こちら(↓)になります。

  81道場モバイルβ (Googleプレイストアにて一般公開)

当サイトを応援して下さるユーザの皆様のおかげで、高評価点を頂いております。有難うございます。評価が高いほど、ユーザも集まり易くなると思いますので、引き続きレビューにご協力をお願いします。

また、β版よりも開発が進んでいるα版も一部の皆さんに配布中です。こちらは、対局でのマイル獲得再戦機能持将棋計算、などの機能追加に加え、新しく導入する「ミスクリック防止機能」が付きました。
α版は、DeployGateという配布サービスを経由してのインストールとなります。 このブログをご覧の方には、アプリ配布ページをお伝えします。(↓)

  α版 (DeployGateにて限定公開) 

α版のインストールにはパスワードが必要となります。パスワードはこの記事のコメント欄に記載します。


新機能のご紹介
さて、新しく導入する「ミスクリック防止機能」をご紹介させて下さい。(ミスクリックというより、「ミスタップ」でしょうか。)
まず、指し手が確定する瞬間はいつか、という話から。他サイトのアプリを見ますと、指でタッチした瞬間に駒が動くものがあります。例えば将棋ウォーズですね。サクサク動いて大変気持ちが良いものです。しかし、常にミスタッチのリスクと隣り合わせですね。
本物の将棋の再現にいちいち拘る81Dojoでは、少し違います。指し手が確定するのは、手を離した時、です。本物の将棋のルールと同じですね。手を離すまでは戻せるのです。PC版もそのようになっています。マウスのボタンを離した時点で指し手が確定します。マウスを押し下げた瞬間「やばい」と思ったら、押したままそーっとカーソルをずらせば、位置を変更したりキャンセルが出来ます。

さて、指でタッチしてから、離して確定させるまでの間、この時間を有効に使い、今どこのマスを触っているかを見れるようにしたのが、今回導入した「ミスクリック防止機能」です。
mistap
 このように、矢印の向きや、マス目の符号を用いて、今どこを触っているかを表示します。触ったまま指をスライドさせれば、位置を修正することが出来ます。駒によって出る場合と出ない場合があります。例えば歩を突く時はミスがありえないので表示しません。マス目が一つ隣りの場合のみ、矢印の向きで直観的に表すようにしました。2マス以上離れると、符号での表記となります。
この符号は、後手の場合は反転しますが、これもなかなか勉強になります。自分が後手の時に、感想戦で正しくマス目を言えない人が結構いますが、このアプリを使っていればすぐに慣れるでしょう。
ちなみに、感想戦で盤面に矢印を描く時にも、これが表示されます。矢印はドラッグで描くのですが、狙いを定めて押せるタップと違い、ドラッグだと狙いのマスが隠れて見づらいので、なかなか思った通りの矢印が描けなかったりするのです。そのため、このマス目表示機能によって、矢印が格段に描きやすくなりました。

まだ試行錯誤の段階なので、皆さんでお試し頂いてご意見を下さい。徐々に改良していきたいと思います。目障りなので機能ON/OFFつけて欲しい、という方も出てくるかもしれませんね。 


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